2022年3月以降、北海道で新しい観光列車が投入されるとの報道がありました。国交省や北海道庁から支援策を原資とするようです。
今回はこの支援策の内容と、どのような観光列車が投入され、どの路線で運行されるのか考えてみたいと思います。
国交省からの太っ腹な支援策
JR北海道の財務状況が危機的状況にあることをご承知のことかと思います。それに対し、昨年12月、国土交通省は2021年4月から3年間に渡り、総額1302億円の助成金交付を決定しました。この2年間の助成金が416億円だったので、倍以上の支援となります。これはコロナの影響で過去に例を見ないほどの需要激減が影響しているでしょう。
北海道庁は年間2億円をこれまで「利用促進費」で拠出していました。
JR北海道は「単独での維持は困難」と指定する8線区(通称黄線区)に対し、日本政府と北海道庁、沿線自治体による赤字補填、上下分離方式といった大きな支援策を要望していますが、北海道庁と沿線自治体はこれを受け入れず、あくまで「利用促進費」としてのスタンスを崩していません。
そんな中、国交省が大規模な助成金の交付を決めました。しかも、その中には
「令和3年度以降に地域と協力して行う「黄線区」への支援は別途検討」
するとの文言がありました。
国土交通省 鉄道局鉄道事業課 プレスリリース「JR北海道、JR四国等に対する支援を継続・拡充します」
これで風向きが変わったようで、「利用促進費」の名目は変わらないものの、北海道庁も国交省の前向きな姿勢に合わせ、支援金額を年間2億円から数億円に増額するようです。また、これまで拠出してきた年間2億円の支援金は北海道庁と沿線自治体によって支払われてきたものですが、今回から北海道庁が単独で行い、沿線自治体への支払いは求めません。
これに合わせ、国交省は北海道庁の支援金と同程度の支援を行うようです。
第三セクター主導での支援
国交省と北海道庁からの支援金はJR北海道ではなく、第三セクターである北海道高速鉄道開発に対して支払われます。
北海道高速鉄道開発が観光列車を用意して、JR北海道に無償で貸し出します。
今回の支援のポイントはここです。
国交省と北海道庁が用意する支援金は、JR北海道が自由に使えるわけではなく、北海道高速鉄道開発が稼ぐ手段を用意してあげるから、それで頑張れということです。
北海道高速鉄道開発はJR北海道、北海道、道内の自治体が出資し、根室本線や宗谷本線の高速化工事のために設立された会社ですが、宗谷本線で運用されるキハ261系12両は北海道高速鉄道開発が保有し、JR北海道に貸し付けています。
今回も同様のスキームが利用されます。
ただ、運用区間が決まっているキハ261系とは異なり、観光列車の運行区間は北海道庁の意向が大きく反映されるでしょう。
観光列車はどこを走る?
今回の支援策はJR北海道が「単独での維持が困難」と指定する8線区、通称黄線区への支援です。この8線区とは以下の路線を差します。
- 宗谷本線 名寄から稚内
- 石北本線 新旭川から網走
- 釧網本線 網走から東釧路
- 根室本線 釧路から根室(通称花咲線)
- 根室本線 滝川から富良野
- 富良野線 旭川から富良野
- 室蘭本線 沼ノ端から岩見沢
- 日高本線 苫小牧から鵡川
新しく用意される観光列車が、これらの路線に満遍なく運行されるかといえば、否でしょう。
路線によって事情がかなり異なりますし、沿線自治体のやる気も関係します。
釧網本線
夏はくしろ湿原ノロッコ号、冬はSL冬の湿原と流氷物語が運行されており、北海道で最も観光列車が運行されている路線です。観光資源が豊富な路線であり、知床斜里と標茶の間は観光列車空白区間なので、ここを埋める列車の投入も考えられるのでは?
花咲線
ラッピングトレインが走るだけで、本格的な観光列車は運行されていません。
車窓も良さには定評があるので、沿線自治体のやる気次第では?
釧網本線の観光列車と合わせ、釧路へのアクセスとして特急おおぞらの利用率向上も見込めます。
富良野線、根室本線の滝川から富良野
富良野線では富良野・美瑛ノロッコ号が運行され、根室本線ではフラノラベンダーエクスプレスが運行されます。釧網本線と並んで、観光資源に恵まれたエリアです。
フラノラベンダーエクスプレスは新造された、キハ261系のラベンダー編成が使えるので、優先順位は低いです。
ノロッコ号は牽引機DE15の引退時期が迫っているので、後継車両について考えなくてはいけません。
宗谷本線
昨年、JR東日本からびゅうコースター風っこをレンタルして、風っこそうやを運行した実績があり、観光列車を走らせやすい状況が整っています。
また、キハ261系のはまなす編成での特急宗谷、特急サロベツの運用と合わせ、相乗効果を見込むことも考えられます。
石北本線
沿線の北見市は地域の物産品を車内販売を行うなど、意欲的です。
以前はノースレインボーエクスプレス車両でオホーツク流氷や流氷特急オホーツクの風が運行されていましたので、キハ261系はまなす編成での特急運行と抱き合わせで。
室蘭本線の沼ノ端から岩見沢、日高本線の苫小牧から鵡川
正直に観光列車が運行されるとは考えづらい路線です。
このような公的資金の投入では、対象に満遍なく行き渡るような支援になりがちです。平たく言えば、横並び。
しかし、今回の支援策では北海道庁が沿線自治体には支払いを求めていないため、金を出したから口も出す、という状況ではありません。
もちろん、北海道庁としては北海道全体を考えないといけませんが、それは限られた資金を最大限に活かす方法ということにもなります。
どんな車両が登場するのか?
予算は概算で年間5億円から8億円の間と推測します。
北海道庁が年間2億円から増額する意向を示しています。そのアップ額は最低年間2億5千万円から、最高が倍額の年間4億円でしょう。国交省は同額を負担する意向を示しているため、年間5〜8億円となります。
この予算でできる観光車両とはどんなものでしょうか?
まず、JR北海道はキハ261系5000番代のはまなす、ラベンダーを投入したばかりなので、特急型車両ではないでしょう。しかも、これらは新造車両で、5両1編成で20億円とお値段も破格。そして、どの路線でも走れるわけではないので、汎用性が低いです。
では、普通車を改造したものでしょうか?
他社の観光列車の製造コストを見てみましょう。
- JR九州 指宿のたまて箱 1両あたり1億円(既存車両からの改造)
- しなの鉄道 ろくもん 3両で1億円強(既存車両からの改造)
- のと鉄道 のと里山里海号 2両編成で3億円(新造車両)
指宿のたまて箱もろくもんも同じ水戸岡デザインですが、しなの鉄道のろくもんはJR九州のノウハウを使って改造されたため、コストが低いです。これはJR九州の社長の許可をもらって、地方鉄道の創生に役立てていると水戸岡先生もおっしゃっています。
のと里山里海号は新造車両で2両編成3億ですから、コスパは良いのですが、種車がJRの気動車に比べると安いことと、北海道での耐雪耐寒設備を考えると、この製造コストでは無理でしょう。
これらを考えれば、JR北海道のキハ40系では、さすがに種車とするにも古すぎるので、キハ54形を買い取って、改造するのがコスパが良いし、どの線区でも走れるため汎用性が高いです。
ただ、H100形に伴いはじき出されるキハ40系を種車に、JR九州的な改造するのが一番簡単でしょう。実際山紫水明もキハ40系の改造車両なので、程度の良いものを使えば、使えるのかもしれません。ただ、せいぜい使えて5年くらいだと思うので、コスパは良くないと思うのですが……。
JR北海道の最新型一般気動車のH100形は一両2億円だそうで、これを元に観光車両を新造することもできます。ただ、2両1編成製造したら、5億円かかるでしょうから、1年分の予算に相当するかもしれません。できれば、2編成くらい作って、運行範囲を広げたいところです。
また、JR北海道が保有するDE10もDE15も車歴が40年近くになり、廃車が近いため、くしろ湿原ノロッコ号と富良野・美瑛ノロッコ号の後継車両という位置づけでの観光列車になるかもしれません。そう考えると、びゅうコースター風っこのような車両もありですね。
流氷ノロッコ号は牽引機関車が不足している理由で廃止されました。その後継烈車として流氷物語の運行が開始されましたが、予算が限られていたこともあり、外観のラッピング以外、キハ54形の原型のままで、観光列車としては正直イマイチです。
限られた資金とはいえ、最低でも年間5億円くらいは使えるはずですから、「乗りに行きたい」と思わせるぐらいのものを作って、北海道を盛り上げてほしいですね。